地球温暖化の影響で昨年の夏は全国で猛暑酷暑が続きましたが、やはり冬は寒いですね。少し心あたたまるお話をしましょう。
今から30年以上も前のことです。
とある映像ディレクターがいました。家族は奥様と幼稚園に通う娘さんとの三人暮らしです。当時の映像編集素材は業務用のビデオテープで小ぶりなお弁当箱ぐらいのサイズです。編集スタジオにはデッキが何台も設置され、ノンリニア編集の現代ではとても考えられない光景です。
ある日のこと、ディレクター氏は翌朝が編集スタジオ直行のため会社から何本ものビデオテープをカバンに詰めて自宅へ持ち帰っていました。
朝の出勤前はいつも賑やかです。幼稚園への登園準備で娘さんが家の中を走り回る間に朝ごはんです。パン食の母娘と白いご飯をかき込む父でダイニングキッチンは大忙し。
そしてディレクター氏はスタジオに到着。クライアントに挨拶を済ませ、では素材を、とカバンを開けてみると、なんとテープがありません。その代わりにたくさんの小さなぬいぐるみたちがディレクター氏を見上げています「・
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・」。その後どんな釈明をしたか定かではありませんがその日の編集はキャンセルになってしまいました。
カバンの中身を入れ替えたのが誰かはわかっています。帰宅後に娘さんにいたずらの理由を尋ねたところ、こんな返事が返ってきました。「毎日一人で会社に行くお父さんが寂しい思いをしないように、一番大切にしているぬいぐるみをお供につけてあげた」とのこと。
叱れませんでした。
理由を説明する幼稚園児の純粋な顔が目に浮かんできます。
子どものころ誰もが持っていた人を思いやる心は、大人になるといつしか忘れてしまうようです。
その気持ちがあれば、争いや不毛な競争が少しなくなるのではと思います。
水が温むまであと少し。
穏やかな気持ちで春を待ちたいと思います。